残業代を請求されている
<残業代の請求について>
・そもそも残業代とは?
一般的に「残業代」という言葉が使われている場合、その内容は
⑴深夜労働に対する割増賃金
⑵法定休日労働に対する割増賃金
⑶時間外労働に対する割増賃金
⑷法内残業に対する賃金
の4つに分けることができます。
⑴ 深夜労働に対する割増賃金とは、深夜帯(午後10時から午前5時まで)の間に従業員を働かせた場合に発生する残業代です。他の時間に働く場合の給与よりも25%以上(たとえば、時給1000円の従業員であれば1250円以上)の割増をする必要があります。
月給制の従業員の場合も、1時間あたりの給与を計算した上で、同じように割増をすることになります。(詳しくは「残業代の計算方法」をご覧下さい。)
「残業代」の一種ではありますが、通常の業務の延長として働くかどうかは関係なく、「深夜帯に働いた」ということに注目して適用されます。たとえば、シフト制で勤務する従業員が午後10時から翌日の午前4時のシフトに入った場合には、働いた時間すべてが深夜労働として割増がなされます。また、午前4時から午前10時まで勤務した場合は、午前4時から午前5時までの1時間に深夜労働の割増が適用されます。
勤務に深夜の時間帯を含む求人を行う際には、記載している給料が深夜割増の分を含んでいるかどうかを明確にするべきでしょう。
⑵ 法律は会社に対して、従業員に「1週間に1回の休日」を与えることを義務付けています。この法律が義務付けている1週間に1回の休みのことを「法定休日」といいます。
法定休日労働に対する割増賃金とは、会社が従業員に対して与えるべきと定められている法定休日を与えず、労働させた場合に発生する割増賃金です。
完全週休2日制の会社も多いかと思いますが、片方が法定休日であり、もう一方は法律よりも手厚く与えている休日(法定外休日)にあたります。殆どの週は土日が休みで、繁忙期などには土曜日だけ出勤させるという会社であれば、就業規則などで法定休日を日曜日に指定し、土曜日は法律が定める最低限を超える休日とするのが通常です。
法定休日に従業員を出勤させた場合、他の時間に働く場合の給与よりも35%以上(たとえば、時給1000円の従業員であれば1350円以上)の割増をする必要があります。月給制の従業員の場合も、1時間あたりの給与を計算した上で、同じように割増をすることになります(詳しくは「残業代の計算方法」をご覧下さい)。
⑶時間外労働に対する割増賃金とは、「1日あたり8時間」または「1週間あたり40時間」という法律上の制限を超えた場合に発生する残業代です。
正社員の働き方としては、土日休みの完全週休2日制で1日あたり8時間、1週間あたり40時間を働くケースが多いと思います。つまり、1日あたりの時間も1週間あたりの時間も法律の制限内でギリギリになるように設定されているものであり、1日8時間を超えても、土日いずれかに出勤しても、時間外労働に対する割増賃金が発生することになります。
また、シフト制等で働く従業員の勤務時間が1週間あたり40時間を超えない場合でも、1日8時間を超えた日があれば、超えた部分について割増賃金が発生します。法律の制限は従業員の生活や健康のために設けられているものであり、週あたりの労働時間が少なくても1日に長時間働くこと、逆に1日あたりの労働時間が少なくても週間で見て働いている時間が多いこと、いずれも望ましくないといえるためです。
割増率は25%以上であり、はみ出した時間は時給単位で25%加算して支払う必要があります(たとえば、時給1000円の従業員であれば1250円以上)。
月給制の従業員の場合も、1時間あたりの給与を計算した上で、同じように割増をすることになります。(詳しくは「残業代の計算方法」をご覧下さい。)
⑷法内残業に対する賃金
法内残業とは、⑶の「1日あたり8時間」または「1週間あたり40時間」という制限ははみ出していないものの、事業者と従業員が約束した業務時間を超えている場合の残業代です。
たとえば、パートなどで勤務日が月曜日から金曜日、勤務時間が午前10時~午後3時、休憩1時間、基本給10万円(手当なし)という条件で勤務している従業員に対して、金曜日に急な必要が生じて1日だけ2時間(午後5時まで)残業をしてもらうとします。この場合、1日あたりの勤務時間は6時間であり「1日あたり8時間」という法律上の制限を超えていません。また、残業をしたのは金曜日の1日だけであり、他の勤務日4日間は毎日4時間勤務しているため、1週間に働いたのは22時間であり、「1週間あたり40時間」という制限の範囲内でもあります。
しかし、普段午後3時までの勤務をして基本給10万円をもらうという約束で勤務している従業員にとっては、金曜日に普段より長く働いた分、給料も増えて当然と考えるでしょう。
このように、法律の制限ははみ出していないものの、会社と従業員が約束した労働条件にはみ出した法内残業については、基本給及び勤務日数から1時間あたりの時給を割り出し、行った残業時間の分を支払うことになります。他の⑴~⑶の類型とは異なり、割増は行いません。
<残業代の計算方法>
(例)A社で事務職として働いているBさん
BさんはA社に採用される際、勤務時間について
「完全週休二日制(土日)+祝日休み 勤務時間9:00~17:00(休憩1時間)」
と提示され、その旨が記載されている契約書にサインしました。基本給は月給20万円(支給額)で、ボーナスは会社の実績に応じて支給額されます。A社には家族手当など各種手当の支給規定がありますが、残業が発生した段階でBさんが受給した手当はありませんでした。
このBさんが2020年に行った残業代を計算する場合に基づいて、残業代の計算方法を解説します。
⑴~⑷いずれの場合であっても、残業代を計算するためには、月当たりの給料を時間あたりの給料に換算する必要があります。
2020年の土日祝日にあたる日は120日ですので、Bさんの条件で1年間の勤務日数は246日間となります。
Bさんは9:00から17:00まで勤務しており、休憩が1時間であるため、1日の勤務時間は7時間です。
1年間の勤務日数が246日間、1日あたりの勤務時間が7時間であるため、A社が想定しているBさんの1年間の勤務時間は246日間×7時間=1722時間です。
A社がBさんに対して約束する給料のうち、確定している金額は基本給の月額20万円ですので、1年間の給料は20万円×12ヶ月=240万円です。A社ではボーナスは定額ではないため、時間単価を割り出す上で「1年間の給料」として加算しません。
1年間の給料と1年間の勤務時間から1時間あたりの給料は、
240万円÷1722時間≒1394円
となり、これが残業代を計算するために用いられる時間単価となります。
勤務日数を1ヶ月ではなく1年間で割り出すのは、1ヶ月当たりの日数や休日はまちまちであることが多く、年間でならす必要があるためです。
この時間単価を1時間分として、⑷の場合であれば残業をさせた時間分、⑴~⑶であれば残業をさせた時間に必要な割増率をかけ合わせて、残業代を計算します。
Bさんが受け取っている給料には手当が含まれていませんでしたが、各種手当を受け取っている従業員の時間単価計算をする場合、手当の性質によって「1年間の給料」に含めるかどうかが変わってくることになります。
<残業代の時効>
残業代は従業員が受ける賃金請求権の一種であり、本来支払われるべきであった日から2年間を経過すると時効によって消滅します。
労働基準法115条
この法律による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
たとえば、2020年3月1日に残業をして、同年3月10日に〆、法律に基づけば同年3月20日に支払われる給与に残業代を入れるべきであったにもかかわらず実際支払われた給与に計上されていなかった場合、2年間の開始日は2020年3月20日となります。
1人の従業員であっても、それぞれの残業代は本来支払われるべき日から個別に消滅時効にかかります。会社側からすると、従業員から残業代を請求された場合であっても、「時効によって2年より前の請求権は消滅している」と主張して、最大でも直近2年間分の支払いしかしなくてよいということになります。
ただし、2年間という消滅時効の期間は将来変わる可能性があります。民法は労働基準法よりも一般的なルールを定める法律ですが、平成29年の民法改正(令和2年4月1日施行)により、「請求権を有する人が権利行使できると知った時から5年、客観的に権利行使できる時から10年」というルールに統一されました。これは5年間より短い消滅時効期間は不適切であると考えたためであり、この改正に伴って、将来労働基準法の消滅時効も2年間ではなく5年間に伸ばすべきではないか、という議論がなされています。
今後の法律の改正状況によっては、従業員の未払残業代を支払う際に2年間以上遡らなければならない可能性がありますので、対応の際には十分注意してください。